Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “影も姿も

          *すみません、途中に「R−12」描写があります。
           中学生以上のお嬢さん以外は読んじゃダメだぞ?
 



          




 特に“京都”という土地だからという区別なく、今時分は日本中が最も寒い極寒の底にあって、誰であれただただ耐えるしかない時節だったりし、
「まあ、明けない夜はないというし。」
「お館様、それって例えが微妙に違うような。」
 この俺に意見するとは、いい度胸をしてんじゃねぇかと。手元にあったみかんを1つ。それでも随分と手加減して放れば、
「食べるものを粗末にしちゃあ いけませんてばっ。」
 このお話の瀬那くんは、本編の“別のお話”のセナくんなので。そうそう おどおどとばかりしていない。
(おいおい) お館様が投げて来たみかんを難無く受け止めた…憑神様の進さんのお背せなに守られつつ、頼もしい肩口からひょこりとお顔を出しての口答えなんかしちゃったりする、結構腰の強い子だったりもするのではあるけれど、
「…ほほぉ。」
 それはそれは鋭利なまでの、隙のない美麗さがいや映える、それは玲瓏な顔容
かんばせをなさったお館様。何事かの思惑をその奥底にひそめてのこと、切れ長の目許がちょいと眇目になったりしたならば、
「…ご、ごめんなさいです。」
 確かに、目上の方への口答えはお行儀が良くはなかったが、だからって…何もそうまで身を縮めて頭を下げなくともいいのではと。板張りの広間の片隅で、お団子みたいに小さく丸まったセナくんへ、
「…ああまで恐れられとるんだな。お前。」
「まあな。」
 舐められて堪るかいということか。こちらさんもそうと言われて胸を張るお師匠様なのが、まったくもって困った主従であるのへと。こっそり大きな肩をすくめた蜥蜴の総帥。向かいにいたセナ坊の憑神様が、自分の主人の傍らまで立ってゆくのを見送りながら、相変わらずのほのぼのとした空気へ、それでも随分と和んだお顔でいたりしたのだけれど。


   ――― まさかにそんな、とんでもないことがすぐ間近まで迫っていようとは。


 決して傲慢にも世間を舐めていた訳ではなく、はたまた“我が世の春”にぬるくも浸り切っていた訳でもなかったのだけれど。この段階では誰一人、気づく者はいなかったし、そうまで大それたこと、なのに気配なくこなせるなんて、思いも拠らなかったのだった。







            ◇



 寒気自体も厳しいその上、屋敷のあちこちでは隙間風だろうか笛の音のような響きを立てているのが、尚のこと寒々しい雰囲気を盛り上げて。広々とした板張りの広間は、炭櫃を始め、一応の手当てがこれでもあれこれなされてあるので、さほど凍えるということもないながら。それでも…寄り添い合うと何となく心地がいいからと。炭での暖を挟んでの、向かい合わせでいたものが、いつの間にやら同じ面へと並んでいたり。他愛ないこと二つ三つ、低い声にて語り合い。そのまま相手の懐ろへ、その身をぬくぬくと収めれば。大きな手が抱きすくめつつ じゃらしてくれるのが、やがては睦みの前振りとなり。
「…ん。」
 ふざけ合いやじゃれ合いの中では、結構羽目を外して抱き着いてくることさえあるというのに、これはまた別なのか。最初のうちは偉そうに“こうしろ、ああしろ”指図まで出していたものが。このところでは…どこかしら、戸惑うようにためらうように振る舞って。照れからか視線を逸らしていたりすることもあったりし。単なる情交の行為だったものへ、気持ちとか情とかいう深くて繊細なものが、後から追いついて来たということか。炭櫃の傍らから立ち上がり、大事な痩躯を寝間へまで。運んで差し上げ、暖かな衽
しとねへそぉっと降ろす。灯した燈台は1台だけだが、それでも相手はすっかり見えて。横たえた傍らへ寄り添いながら、まずは細い顎を指先に捕まえ、親指の腹で唇を撫で、それからそっと口づけて。抱きすくめた痩躯をそのまま守るように包み込めば、ふるりと一瞬、猫の仔のように震えるのが何とも言えず愛おしい。
「あ…。」
 深く浅く、誘うように遊ぶように。何度か重ねたその後で、肉づきの薄い唇を離れ、顎へおとがいへと少し出した舌先をすべらせれば。いつの間にか逸らしていた視線が、やんわりと閉ざされ、切なげな表情をその唇へきつく噛みしめる。先程までその懐ろへと枝垂れかかっていたせいで、少々乱れていた衣紋の懐ろへまで。緩くて温
ぬるい口づけをすべらせて。それと並行して、大きな手のひらを肌に添わせてゆっくりとずらせば、細い肩が袷あわせから簡単に抜け出る。
「…っ。」
 外へとあらわに出されたことへか、肩ごと震えを示した彼だったけれど。そこへとまで唇をすべらせると、今度は擽ったかったからか、撥ねるような震えを見せてから、
「………遊んでんじゃねぇよ。////////
 夜目にも判る真っ赤な顔で、一体何を強がっているものやら。とはいえ、裾の方も乱れかけてた衣紋の合わせを、白い膝を立てる所作にて大胆にも踏みはだけ。柔らかい腿の内側ですりすりと、直接的なお誘いを受けたりなんかしたなら…もうもういけません。とっとと衣紋を剥ぎ取って、綺麗な腕も御々脚も、強がりな肩も。掠めるように触れただけで肌が粟立つほど敏感な、朱の粒実が挑発的な胸元も、しっかと躍動して抱き返す力とともに浮き上がる、綺麗なかいがら骨や なめらかな背条の撓やかな背中も。どこもかしこもを、全部 隈無く愛でたくなる。
「ん…。や…っ、んぅ…。」
 吐息が徐々に熱を帯び、甘えるような細い声を洩らすことへ、構っていられなくなったら…もうもうこっちのもの。何にか攫われてしまうのを、心底恐れているかのように。ぎゅうぅっと しゃにむにすがりついてくる四肢の真摯さが、苦しいけれどこれまた愛しくて。与えられる甘い刺激に、逃れたいのか身をよじり、さりとて…いつまでも同じ程度ばかりが続くようだと、焦れたようにこっちの身体へと擦りついて、その先をと求めて来るようにもなっており。
「や…っ、やめ…あ…っっ。」
 淡い色彩も今となってはお気に入りの、金色の髪をしっとりと振り乱し、練り絹みたいに真っ白でさらさらだった肌が、ほんのりと桜色に染まり、うっすらと汗ばんでくれば。こっちの手へと、合わせた肌へと、向こうから吸いついて来るようなその懐っこさもいや増して。執拗にそそがれる強い刺激を振り払いたいのに、体がもうもう言うことを聞かない。ひくひくと震える口許が何とも言えず煽情的で、切なげに歪み、細められた目許には朱が走り、日頃あれほど冷たくもつれない、同じ人物とは思えないほどに艶やかで。自分を組み敷くなぞという、許しがたい蛮行に及んだ男の雄々しき肢体へと、そちらからも激しくすがっては、しどけない蜜声を上げ、早く早くと絶頂を急かす。
「あ…っ!」
 不意のことへと全身が撥ね、その弾みで目尻からこめかみへと潤みがあふれた。それを丁寧に舐め取る舌の持ち主の、そりゃあ屈強な両肩へ懐ろへ、ぐいと力強くも引き寄せられた顔容が、
「…っく。」
 辛そうに歪んだのも一時のこと。そろそろと吐息をついて、それからそれから少しずつ。咬みしめられてた口許がほどけ、キツく寄っていた眉間が絆
ほだされ。再び呼吸の脈が速くなり、節々が壊れた玩具の人形のように、安定悪くもがくがくと揺すぶられながら。やっぱり壊れた笛のよに、同じなばかりの短い声を刻み始めて。
「あ…っ。…ああっ! や…ぁあっ!」
 助けてとすがった相手こそが、こんなにも苦しくて甘い攻勢をやめない張本人なのだと。重々判っているのに…ぎゅうと抱いたの抱き返されて。それで少しは安堵して。
「あ、ああっ。や…。んぅ…やめ…あっ!」
 脚を大きく広げられた、あられもない恰好・姿勢でいるのも気にならない。欲望剥き出しの嬌声ばかりを、狂ったように上げ続けているのも、それがどうしたと開き直れる。暑くて熱くて溜まらない。肺が潰れそうなほど呼吸が辛い。体の芯が熱くて辛くて、幾度も幾度も意識が飛びそうになる。体の奥へと押し込まれ、弱いところを擦り上げ突き上げ続けてる、堅くて熱い肉の芯棒が、その呵責を止めようとしないから。今にも全てを放り出して気絶しそうで、なのに…それが出来ないでいる。今終わるのでは、次で終わるのでは、その時に襲い来る“絶頂”を噛みしめなくてどうするかと。それでの悪循環が延々と続くということは、こちらからの欲望も強いせいということか。

  「………っっ?!」

 全身の血が一気に沸騰するような勢いで、不意に襲い来た淫悦の波濤に。目の奥が、頭の芯が真っ白く発光し。そのまま、頂点へと押し上げられて、怖いくらいの浮遊感に包まれる。
「あ…、っ!」
 声が出せない。吐く息と吸い込む息とが喉の入り口で真っ向から衝突していて、それ以上のことが出来ない。泣き出しそうに見えたのか、頼もしい腕がすっぽりと、こちらの背を抱き、よしよしと宥めてくれたような気がして。………そのまま、意識がやっとのことで途切れてくれた。







  「……ま。…蛭魔?」

 何だか、怪訝そうな声を出す。何だどうした、何か珍妙なものでもついていたのかと、こっちからこそ怪訝そうな顔をして眸を開ければ、燈台の明かりの中、見慣れた男の肩の線と頭の輪郭。それがずいっと間近まで、一気に近づいて来たもんだから、せっかくの余韻まで吹っ飛ばすほど、こっちも眸が冴え、何ごとかと思ったが。
「………。」
 何とも言えぬ微妙な顔にて、こちらの顔をじぃっと凝視してから。大きな手のひらが、そぉっとこっちの頬を撫で始めて。
“???”
 相変わらずに何にも言わないままの葉柱であり。何なんだよと怪訝に、ともすれば蹴ってやろうかという勢いへ発展しそうに、イラッとしかけもしたのだけれど。なめらかな頬を確かめるような、慎重で優しい構われ方が繰り返されるのへ、何だかこちらも乙な気分が込み上げて来。その手へ自分の手を重ねれば、目許をやんわりと細めれば。ちょっぴり真摯でさえあった真顔でいたものが、何にか納得したような、そんな気色で表情を緩め、
「…もっかい、いいか?」
「わざわざ訊くな、馬鹿もの。」
 ほとんど吐息に近い掠れた声が、そのまま耳と感覚を擽って。くつくつと笑ったそのまま、撓やかな腕、伸ばしてきた愛しい痩躯。その胸へしっかと抱き締め直した総帥殿であったのだけれど、

  “……………。”

 その胸中へとかかった正体不明の小さな陰りに、こっそり複雑そうなお顔をしてもいたのであったりした。






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  *最終兵器彼女のCMを見て、
   何だか懐かしくなったもんで、こんな話を思いつきました。
   叱られるかもですが、どうかお付き合いくださいませ。